「シール帳って誰でも持ってるんですか?」「おしりシールって何ですか?」「シールが見つからなくて困っています」など、最近、子どもたちの中で流行っている「シール」!ママパパ編集部にも疑問や悩みが多数寄せられます。そこで、今回は、「シール」を例にして「子どもを理解する」ことについて小・中学校でスクールカウンセラーとして20年以上の経験がある認定専門公認心理師・臨床心理士の吉田直樹先生に聞いてみました。
心理学では「動機づけ(モチベーション)」という視点で考えることができます。「動機づけ」とは、子どもが行動を起こして、それを進めていく心理的なプロセスです。一般的には「やる気」や「やる気スイッチ」と言い換えてもいいでしょう。娘さんたちは、「シール」自体に興味や関心があり、その内面的な要因によって「シールを手に入れる」という行動へ意欲が高まり、実際行動しているのです。このような「楽しいからやる」といった内面からの興味や関心で行動を起こすのを「内発的動機づけ」と言います。「ただのシールにお金と時間を費やす?」と批判したくなったり「何よりシールが欲しい?」と疑問を持つママやパパも多いでしょう。しかし、「内発的動機づけ」は、心理学において非常に重要視され、学校の授業の中でもそれを促すために様々な工夫がされています。「内発的動機づけ」には、子どもの創造性や主体性を向上させる効果がありますから、家庭ではできる範囲の中で応援してあげるといいでしょう。
動機づけには、もう一つ「注目されたい」「いい成績を取りたい」といった外部の評価やご褒美、罰によって行動が促される「外発的動機づけ」があります。例えば、小1のお子さんは「周りの友達がシールを持っているから」、小4のお子さんは「友達とつながりたいから」、中1のお子さんは「このシールは誰も持っていないから」というのが「外発的動機づけ」になっているかもしれません。つまり、シールに興味や関心があり楽しいという「内発的動機づけ」をベースに、それぞれの子どもの発達レベルや環境により「外発的動機づけ」が絡んでいると考えるといいでしょう。したがって、家庭では、自分の子どもの友達関係など環境を踏まえ、子どものニーズを見極めて対応することが大切になります。「シール」を通して子どもが成長する絶好の機会なので、十分に活かせるといいですね。
習い事や放課後など、友達とシール帳をお互いに見せ合って、シールを交換するというのが小・中学生を中心に流行っています。シール交換にはレートも存在していて、珍しいシールや人気のあるシールはレートが高く、普通のシールはレートが低いようです。この「シール交換」には、子どもたちの性格や行動の傾向、ソーシャルスキルなど、様々な側面が垣間見えます。
まず、姉の方は、シール帳は持っているので、周りへの関心はあり、それに合わせることができているので、一定の社会性は身に付いているでしょう。ただ、シールそのものに興味がないので、レートの高い低いに関係なく簡単に交換しています。親としては「探してやっと手に入れたレートの高いシールを!」となりがちですが、これで友人関係を良好に保てていれば上出来なのかもしれません。親のイライラを抑えて、経過を見ることが大切でしょう。
一方、妹の方は、自分の意見や気持ちを友達に伝えることが苦手なので、友達から「このシールと交換して!」と言われると「イヤ」と言えず交換しているようですね。子どもの自己主張というのは、心理学的にはコミュニケーションや社会性などの特性と関連づけて考えます。もともと自己主張が苦手の場合は、コミュニケーション自体が難しい可能性もあるので「イヤなものはイヤと言いなさい」という注意は子どもには不適切になります。ひどい場合は、お気に入りのシールは保管して、友達とはレートの低いシールだけを交換することになり、シール交換の本来の楽しみを失うことにもなりかねません。コミュニケーション特性ではない場合は、適切な自己主張をするトレーニングになりますのでこのシールブームを積極的に活用するといいでしょう。
心理学では「シール交換」は「自己主張のトレーニング」と捉えることができます。私の専門の家族心理学では「アサーショントレーニング」と言います。「アサーション」とは、自分も相手も尊重しながら、自分の意見や気持ちを率直かつ適切に表現するコミュニケーションの方法です。アサーションでは、コミュニケーション・スタイルを3つのタイプに分けています。まず、自分の意見を言えず、相手の意見を優先する「ノン・アサーティブタイプ」。某有名マンガの登場人物に例えると「のび太くん」タイプになります。「ジャイアン」タイプが、自分の意見を押し付け、相手を尊重しない「攻撃タイプ」になります。 最後に、「アサーティブタイプ」が自分と相手を互いに尊重し、適切に自己表現できる「しずかちゃん」タイプです。やはり、シール交換では、「自分もOK」「相手もOK」というところをコミュニケーションを通じて探り合うことが、子どもたちにとっていいトレーニングになり、アナログな心地よい刺激なのかもしれません。そして、「勝ち負け」や「得か?損か?」という表面的なことにとらわれるのではなく、譲ったり譲られたりしながら本当の友人関係を築きながら成長していきます。このような体験こそが、日常生活において、立場や意見が異なる相手とも対等にコミュニケーションができたり、相手を不快にさせることなく自分の意見も上手に伝えることができたり、気持ちのいい人間関係を上手に築くことにつながっていくのです。